2年前に急逝した池田晶子さんの遺作のひとつなのである。図書館で借りてきて読んだが、実は、あまり面白くない本だった。池田さんは、「自分の言うこと、書くことは、あまりにも変わっていて理解が難しいけど、実は常識的なことを言っているだけで、読者がその真理に気づいてないだけだ」、というふうにずっと言うわけだけど、存在の奇跡や、生と死の不可思議や、永遠の今の境地から見たときの社会的言説の無根拠さなどは、哲学的思考に親しんでいる者からすればきわめて当たり前のことがらであって、読んでいてまったく面白くないのである。
また池田さんは、自分の書いていることがあまりにも「変」だから、自分の文章を読んで発狂する人もいると書いているが、実は池田さんの言っていること自体は凡庸だし、そのわりには記述が混乱しているから、その混乱した文章を理解しようとして、頭が混乱する読者がいるということだけではなかろうかなんである。
全体としての印象で言うと、この人は哲学というものをナメているという気がする。存在の奇跡と無根拠性に気づくのはたしかに大事だが、すべてをそれに落とし込んでそれを哲学だと呼んでいるところや、それらに気づいた自分はすごい、と誤って思いこんでいるらしいところが甘いと思う。
ただし、この本で唯一面白かったのは、飼っていた愛犬が死ぬところと、父親が死ぬところ。もっとも哲学的(池田的な意味での)ではないところの描写がもっとも生き生きしていて、良い文章になっていたように思う。