
お笑い芸人のロザン・宇治原史規が大学の同級生という作者。でも作者が一方的に知っているだけという話である。その作者・万城目学のエッセイ。一気に読破したけれど、エッセイって微妙だと思う。興味が重なると面白いし、興味を外れると退屈で面白くないものだ。それは好きな作家でも然りである。その身近でタイムリーな笑えるエピソードでは、わっはっは!と笑いを飛ばし、興味外のテーマでは、その退屈な文章を当然のようにすっ飛ばす。読む読まないを決めるのは、私の自由だから。
「現場から万城目」です、こう題されるタイムリーな裏話は、知っている人も登場するのでもちろん面白い。温泉地を訪問し、然るのちにスポーツ観戦をするという、万太郎がゆく「湯治と観戦」という旅日記も楽しむことができた。開始早々、アキレス腱を断裂するという不幸に見舞われるが、そのリハビリに湯治はピッタリだったりするのだ。また、どこへ行ってもその万城目の体験談が、緩るくて、妙に味がある。
また、読書にまつわるあれこれが素晴らしい。特に司馬作品に出てくる主人公の分析には、おもわず膝を打ちたくなった。そうなんである。読者をして主人公を大好きにさせてしまうと同時に、物語のなかの出来事をすべて事実のように錯覚させる魅力が、司馬作品のおそろしさであり、その感情移入こそが醍醐味なのである。また井上靖のおもしろくないエッセイについてボヤいている部分は、先に触れたとおり、自分と重なって笑えた。
あと大阪で生まれ、京都で大学生活を過ごし、東京へと移って行った万城目ならではの根が関西人という部分に共感が持てた。まさかテレビのチャンネルひとつでここまで笑わせられるとは。さらにローカルCMこそが記憶に残ってしまっている事実。まさにその通りだ。中でも強烈なのは、何故か妖艶な女性しか登場しないハナテン中古車センターだ。それに有馬兵衛向陽閣とか、今でも歌えてしまうのだから。これぞ関西人。
まだ34歳。これからますます期待がかかる。