11月20日(火) 入院20日目
もうすぐ12月、あと40日で正月だ。もういい加減退屈した。
病室から五月山の風景を見ていると、季節の移り変わりがはっきりわかる。,まさに「諸行無常」である。鴨長明の「方丈記」であり、「平家物語」でもあり、「般若心経」でもある。「空」と「無」の存在を認めざるを得ない。
私は「愛」の表現が非常に不足しているし、「愛」そのものも欠如しているようにも思う。知らん振りして、仏頂面して、長い事生きてきた結果そうなったのかもしれない。
全部自分が悪い。まっすぐを向いて、歩いていかなかった自分が悪い。
自業自得なのだが、今からでも少しは軌道修正出来ると、わずかな望みを抱いて実行に移そうとしている。「過去は気にしなくていい。終わったんだから」
私を知らない人に「私は昔はこんなに素晴らしかったんだ」と何度話したところで、「それがどうした。じゃあ、今はどうなんだ」と言われたら目も歯も無い。
一番肝心なのは今だ。今の自分だ。今何をどうするかだ。
病院に長い事いると、頭まで変になってくる。昼飯が来た。
この3週間あまりの入院生活を、原稿用紙1枚に書けと言われて、果たして書けるだろうか。一番何を学んだのだろうか。ただ窓から、ぼーっと景色を眺め、食事を3度3度とり、寝ていただけなのか。否、悩んだり、後悔したり、腹立ったり、考えさせられたり、いろいろあったはずだ。その経験を活かすのが「大人の勉強」というものだ。
2時過ぎに、美人だが冷たそうな看護師がレントゲン室に行くようにと、カードを持ってきた。これが最後のレントゲンであって欲しい。
担当が筒井順子(のぶこ)になった。彼女はこの病院に10年勤めている古手である。
今年の9月に那覇でCカードを3日かかって取得し、慶良間へ1時間かけていく途中に船酔いし、ダイビングが出来なかったといった話を聞いた。この病院も設立10周年だそうだ。3女梓が9年前にここで産声を上げた。その頃はまっさらだったのを思い出す。
3階の風呂でシャワーをするために、筒井看護師に防水テープを背中に貼ってもらい、19日ぶりに体を洗う。下半身だけだがお湯に浸かる。体を洗ったり、お湯に浸かることがこれほど気持ちのいいものであるか、と今更ながら感動した。