海は地上の海岸から眺めれば、広い海面と単なる海水の塊にしか見えない。ところが、
いったん海中に体を沈めてみると、そこには今まで想像も出来なかった異次元の世界が展開するのだ。
太陽がキラキラと差し込む海面を、裏側から見た強烈な印象は、一度でも海に潜ったことのある人なら、心に焼きつき、忘れることは出来ないであろう。
考えてみると、海中で、人がその水深(気圧)に応じた空気を呼吸できること自体、不思議なことである。レギュレター(呼吸器)をしっかり口にくわえ、一呼吸するたびに、「ああ、自分は確かにここで生きているのだなあ」と確信でき、そのことが逆に生命の危機感を非常に際立たせる。そして、生理的な恐怖が有効に働き、思考がクリーンアップされる。
さらに、都合のいい事に、潜水中は地上の煩わしい出来事などは、いっさい記憶から消えてしまっている。それというのも、海中を遊泳していると、次から次に現れる魚たちが、映画のシーンのようにいろいろなドラマを見せてくれるからである。
そういう点で、働きすぎてノイローゼ気味の人などには、時々、ダイビングを楽しむと、ストレス解消はてきめんである。また、ダイバーに与えられた特権は、水族館のガラス越しに生物を見学するのと違い、生物が生息する、その同じ自然環境に人が同席し、彼らの生活のしくみを直接観察できることである。また若い女性ダイバーも多く、
すっぴんでさわやかな彼女達と気軽に会話できるのも、大きな特権でもある。